安与ビルと多角形の話
街を歩いていて、ふと目が止まる建物って、なんかしらの視覚に残る要素がある。
新宿駅東口にある「安与ビル」も、そんな建物のひとつだ。
母親に手を引かれ歩いていた頃から新宿はよく来る街。
幼い自分の記憶にも残っているくらい印象的な建物だった。
そう!それくらい古い建物(昭和43年竣工)なのだ。
建物は八角形をベースにフロアごとに少し回転して積み上がっている。
多角形の建物というのは、角度が増える分だけ視線の向きが複雑になる。
その結果、見るたびに違う印象を与えるという現象が生まれる。
視線がとまり、また動き出す。その視覚的なリズムが、建築体験を楽しいものにしてくれる。
さらに言えば、都市の中ではその変わった形こそが個性となる。
通りすがりの視線に引っかかり、無意識に認知される。
つまり、建物の形自体が広告として機能する。
安与ビルは、派手な装飾があるわけでもないのに、街の中で確かな存在感を放っている。
幼い頃からなんの建物か不思議でしょうがなかった。
建築が都市の中で自分の立ち位置を表明する方法として、
形そのもので語るという存在のしかたが、ここにはある。
多角形って、使いづらい形だと思われがちだけど、
見る側にとっては、こんなにも豊かな語り手になる。
そう思わせてくれる小さな建物なのだ。
今日のゼミでは、ここになぜこのような形だったのかを考えてみた話をしました。
オンラインサロン「ファンタジック空間デザインゼミ」の
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安与ビル
昭和43年(1968)竣工
意匠設計:明石信道 新宿区役所などの設計
構造設計:内藤多仲 東京タワーなどの設計
内装設計:谷口吉郎 懐石「柿傳」の内装
施工:鹿島建設
伊勢丹を新宿に進出させ、料亭や旅館を経営していた
大事業家 安田与一の業績を残すために息子の安田善一が建てた商業ビル。
「新宿で大人の道草を」がコンセプト。のどかで粋だなぁ。