IDEA

エントロピーと余白

混沌(カオス)の中にある秩序

設計という行為を、ボクはいつも「どこまで決めて、どこまで決めないか」のバランスだと思っている。

建築は秩序をつくる仕事だ。

だけど、すべてを管理して、制御して、コントロールし尽くしてしまうと、空間はただの「完成された箱」になってしまう。
そこには、人が入り込む余地がなくなる。偶然が起こる可能性もなくなる。

「エントロピー」これは物理学でいう「乱雑さ」の指標だ。
時間が経つにつれて、世界はよりカオスへと向かっていく。
それは自然の摂理として、どんなものも次第に“散らかっていく”ということだ。

でもボクは、その散らかりの中にこそ、可能性があると思っている。
むしろ、設計の中に意図的にエントロピーを許容する場所をつくるようにしている。

たとえば、フェスやイベント空間の仮設空間。
そこで人がどう動くか、どう振る舞うか、すべてを予測することはできない。
むしろ、「なにが起きるかわからない」状態があるからこそ、その場は“生きている”と感じられる。

あるいは、住宅でも同じだ。
完璧に整った部屋よりも、住まう人の癖や生活の跡が少しずつ滲んでくるような設計。
光が入る場所、ちょっとした段差、奥行きのある余白
そうした“ほつれ”のような部分が、住まい手に発見や自由を与えてくれる。

エントロピーを否定するのではなく、デザインの中で包み込むということ。
「秩序」と「カオス」は対立するものではなく、むしろ共存できる力を持っている。

そして、その“ゆらぎ”の中にこそ、ボクは意味が宿ると思っている。

整いすぎない空間
きれいすぎない線
予想できない未来

そのすべてが、建築というフィールドの中で、
“自律的な秩序”をつくっていく。

だから設計のとき、ボクはいつも「余白」を残すようにしている。
完璧じゃないからこそ、人が入り込める場所が生まれる。